第1章:イモラでの快挙──“ビリ常連”から表彰台争いへ
2025年5月18日、イタリアのイモラ・サーキットで行われたエミリア・ロマーニャGPで、F1ファンは信じられない光景を目撃した。ウィリアムズのアレックス・アルボンが堂々の5位フィニッシュを果たしたのである。
1年前の同じ場所では、ピットミスによるホイールナットのトラブルでリタイア。そんなアルボンが、フェラーリの本拠地とも言えるこの地で、レッドの跳ね馬とホイール・トゥ・ホイールの戦いを演じた。結果こそ表彰台には届かなかったが、「このチームには未来がある」と語り続けてきたアルボンの主張が、ようやく現実味を帯び始めた瞬間だった。
第2章:栄光の歴史と長い低迷
ウィリアムズ・グランプリ・エンジニアリング──このチームの名は、1970〜90年代のF1に燦然と輝いていた。
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初勝利:1979年
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ドライバーズタイトル:ナイジェル・マンセル(1992)、アラン・プロスト(1993)など
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コンストラクターズタイトル:9回獲得(1980, 1981, 1986, 1987, 1992, 1993, 1994, 1996, 1997)
しかし、1994年のイモラで起きたアイルトン・セナの悲劇を境に、チームの勢いは陰り始め、2000年代以降は表彰台とは無縁の“後方チーム”として扱われるようになった。
第3章:レッドブル放出後の再起を賭けたアルボンの選択
2022年、レッドブルから放出されたアルボンが選んだのは、当時F1界で最も勝てないチームとされていたウィリアムズだった。
「他に選択肢はなかったのか?」という声もあった。しかし、アルボンはこのチームに“可能性”を見出していた。いくら車が遅くても、正確なフィードバック、地道な開発、そして「戦える日が来る」と信じ続けた。
第4章:サインツの“笑われた移籍”とウィリアムズの賭け
2024年末、フェラーリを去ったカルロス・サインツが選んだ移籍先がウィリアムズだと報じられたとき、F1界はざわついた。
「フェラーリからウィリアムズ?」「キャリアを棒に振るのか?」──そんな批判の声が飛び交ったが、今となっては、その判断が正しかったことを証明しつつある。
2025年シーズンが始まると、ウィリアムズは立て続けにポイントを獲得し、開幕から10戦中10回のトップ10入りという快挙を成し遂げている。
第5章:アルボンとサインツ──“静かなる闘志”と“攻めの男”
アルボンは冷静な判断力とタイヤマネジメントに定評のあるドライバーだ。一方のサインツは、戦略を読み切り、リスクを恐れない“攻めのレーサー”。
この二人の個性が、今のウィリアムズに絶妙なバランスをもたらしている。特に、イモラGPではアルボンがフェラーリ勢と激しくやり合い、一時は3位の可能性さえ見えていた。
第6章:チームを変えた“3つの要素”
ウィリアムズの復活は偶然ではない。以下の3つの要素が、チームを根底から変えた。
1. ジェームズ・ヴァウルズ代表の就任(2023年)
元メルセデスの戦略責任者だったヴァウルズがチーム代表に就任。風通しの悪かった開発体制を刷新し、モチベーションの高い人材を次々に登用した。
2. ドライバーラインアップの強化
アルボンとサインツという、経験と野心を兼ね備えた2人の加入により、開発の方向性とレース戦略が一貫性を持ち始めた。
3. 資本投資と技術力の再構築
資金的余裕を得たことでシミュレーション設備や空力開発部門を強化。車体の信頼性も飛躍的に向上した。
第7章:「Excel地獄」と言われた2024年の悪夢
2024年のウィリアムズは、“Excel Spreadsheet From Hell(地獄のスプレッドシート)”と揶揄されるほど信頼性に欠けていた。
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24戦中20戦でリタイアもしくは完走困難
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ピット戦略ミスやシステムトラブルの連続
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ローガン・サージェントの予選DNF多発
そんな一年を乗り越えたからこそ、2025年の躍進がより際立つ。
第8章:「まだ満足していない」アルボンの言葉の重み
イモラでのレース後、アルボンはこう語った。
「純粋なレースペースではP3争いができていた。不満すら感じているのは不思議だが、チャンスはあった。オスカー(ピアストリ)も視界に入っていた。」
これは単なる発言ではない。ドライバーが“勝てる”と信じていることが、今のウィリアムズには力として根付いている証拠だ。
第9章:2025年のポテンシャル──“本物”か、それとも一過性か?
確かに、まだレッドブルやマクラーレンに追いついたとは言えない。今回のイモラでも、アルボンは優勝したフェルスタッペンに約20秒差をつけられた。
だが、チームの着実な進歩と安定性、そしてレース中にフェラーリを相手に堂々とバトルできた事実は、単なる“ラッキー”ではない。
第10章:ウィリアムズの未来──「長期プロジェクト」か「短期覚醒」か?
アルボンは契約延長後、こう語っている。
「この旅路には時間がかかるが、我々は正しい方向に向かっている。」
一方で、今シーズンの勢いがこのまま続けば、2026年以降に表彰台常連、さらには優勝争いさえ夢ではない。
結論:復活の兆しか、それとも新たな伝説の序章か?
ウィリアムズは、ただの“良いレース”をしただけではない。過去の苦しみと笑われた選択を経て、いま確実に前進している。
アレックス・アルボンとカルロス・サインツという2人の才能、ジェームズ・ヴァウルズによる改革、そして失敗から学ぶ姿勢──そのすべてが交差したとき、ウィリアムズは再びF1の頂点に挑む存在となるだろう。
この物語はまだ始まったばかりだ。
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