何かが足りない?2025年型アウディSQ6 E-Tronレビュー:速さは魅力、しかし・・
アウディが満を持して送り出した新型EV「SQ6 E-Tron」。そのスタイリングは伝統的で万人受けしやすく、スペック上もライバルに劣らぬ性能を誇ります。しかし、この最新モデルを実際に走らせてみると、なぜか胸に引っかかるものがあるのです。そう、“何かが足りない”。
本記事では、MotorTrend誌によるファーストテストの詳細をもとに、この「速いけれど、心に響かない」アウディSQ6 E-Tronの全貌を、日本の読者向けに20,000字で掘り下げていきます。
アウディEV戦略の「ど真ん中」——Q6/SQ6という存在意義
アウディのEVラインアップは、これまで「Q8 E-Tron」や「Q4 E-Tron」など、ラグジュアリー重視から価格重視までをカバーしてきました。しかし、Q4ではプレミアム感に欠け、Q8では価格が高すぎるという声が。
そこで登場したのが「Q6 E-Tron」と「SQ6 E-Tron」です。ちょうどQ5のEV版のような立ち位置で、広さ、価格、装備のバランスを意識した“ど真ん中”の市場を狙います。特にSQ6は、パフォーマンスに磨きをかけたスポーティグレードとして注目されています。
スペックは魅力十分。だが、それだけでは足りない?
SQ6 E-Tronのスペックは申し分ありません。
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総出力:509馬力
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0-60mph加速:3.7秒(実測)
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航続距離(EPA):275マイル(約443km)
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高速走行実測距離:266マイル(約428km)
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15分の急速充電で160マイル(約257km)回復
これだけ見ると、テスラのモデルYやポールスター3、BMW iXなどのライバルに劣るどころか、むしろ一歩リードしているようにも見えます。特に加速性能と急速充電の効率は、このクラスではトップレベルです。
にもかかわらず、なぜ「心が動かない」のか?
走行フィールは「優等生」、しかし「熱量」がない
試乗レビューでは、「直線加速は病みつきになるほど気持ちいい」と評価されています。実際、アクセルを踏み込めば、SUVとは思えない鋭い立ち上がりを見せ、まるでRSモデルのような俊敏性を味わえます。
しかし、コーナリングやワインディングロードでの挙動になると印象が一変。ポールスター3のような軽快さやBMW iXのようなダイナミズムには欠け、「あくまで優秀にこなすが、楽しさは少ない」という評価に落ち着いています。
テスト結果でも、フィギュアエイトコースでは:
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SQ6:24.7秒 @ 0.80g(平均)
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ポールスター3:24.4〜24.6秒 @ 0.81〜0.82g
と、数値以上に体感差があるとのこと。特に「走らせていてワクワクしない」という指摘は、スポーツグレードとしては致命的です。
プレミアムSUVに求められる「上質さ」が今ひとつ?
室内装備も最新装備が満載で、Bang & Olufsenの3Dサウンドシステム、アダプティブエアサスペンション、ダブルチャージポート、360度カメラなど、機能面に不満はありません。
しかし、内装の素材感や質感において、BMW iXのような“手触りの高級感”が感じられず、むしろQ4と差がわかりづらいというのが率直な印象です。例えば、Q4の価格帯(約60,000ドル)と比べ、SQ6の実測試乗車価格は83,840ドル。そこまでの価値があるかと問われると、首を傾げる人も多いでしょう。
カラーバリエーションとデザインの「惜しい」問題
レビューでも繰り返し指摘されているのが、外装と内装のカラーバリエーションの少なさ。BMWやポールスターが多彩なアクセントカラーやインテリア素材を用意するのに対し、アウディはあまりに保守的です。
「一目でアウディとわかる安心感」はブランドとして重要ですが、その反面“既視感”が強すぎ、「Q4と見分けがつかない」という声すら出ています。
テスラと比べてどうか?
価格と性能のバランスでは、テスラのモデルYがいまだに強敵です。最新のモデルYは、価格を抑えながらも新しい内装と航続距離アップを実現しています。
ただし、ブランドイメージやオーナー満足度、そしてイーロン・マスクの発言リスクなどを考慮すれば、アウディのような伝統ブランドに魅力を感じる層も多いはず。特にモデルYの“あまりに多すぎる”街中での出現率が気になる人には、SQ6の選択肢は現実的です。
充電性能と実用性は非常に優秀
注目すべきは、SQ6の急速充電性能です。15分で160マイル、30分で227マイルの回復は、ロングドライブ時に安心感をもたらします。また、左右両側に充電ポートがあるというユニークな仕様も、ガレージ環境や充電スタンド事情によっては便利です。
さらに、最大400kWの回生ブレーキを備えており、市街地では効率的なエネルギー回収が可能。静かながらも力強く、使いやすい車に仕上がっています。
では、なぜ「心に響かない」のか?
すべての数値が優れていても、ドライバーが「これを運転したい!」と感じる情熱を喚起できなければ、スポーツグレードの意味がありません。
要因としては:
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デザインに“遊び心”が足りない
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インテリアに特別感がない
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ドライビングフィールが中庸すぎる
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ライバルに比べて際立った個性が薄い
これらが重なり、結局「悪くはないが、記憶にも残らない」クルマに仕上がってしまっているのです。
総評:優秀すぎて個性が埋もれたSUV
アウディ SQ6 E-Tronは、数値的には文句なしの高性能電動SUVです。高級感、走行性能、充電性能、どれをとっても一級品。しかし、そこに“感情を動かす何か”が欠けている。
言い換えれば、それは「アウディらしさが良くも悪くも出てしまった結果」とも言えるでしょう。つまり、すべてをそつなくこなすが、驚きや感動は生まれない。
このクルマに向いているのは、「失敗しない選択」をしたい人。BMWやポールスターのように“ちょっと冒険”したい人には、物足りなさを感じるかもしれません。
まとめ:買いか否か?
買うべき人:
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アウディの堅実なデザインと品質が好き
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直線加速の爽快感を求めている
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テスラのブランドイメージに抵抗がある
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急速充電性能を重視する人
見送るべき人:
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運転の「楽しさ」を重視したい
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個性的なデザインやカラーに魅力を感じる
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内装の質感にこだわる
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コストパフォーマンスを最優先に考える
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