
はじめに:SUV戦国時代に光る“普通”の価値
最近のSUV市場は加熱気味だ。巨大なスクリーン、車内でゲームができる娯楽装置、ライトショー、果ては「瞑想空間」まで…メーカー各社がこぞって“目立つための工夫”に走るなか、逆に注目を集めているのが「普通であること」を突き詰めた一台──それが今回紹介する2025年型 日産キックスSR FWDだ。
このクルマは、価格・性能・装備・使い勝手のバランスが非常に優れており、まさに“生活に寄り添う相棒”としての価値を見直すきっかけになる。ここからは、その真価を徹底的に紐解いていく。
新型キックスはここが違う!──第二世代の進化ポイント
まず大きな変更点として、エンジンの排気量がアップ。旧型の1.6Lエンジン(122馬力・114lb-ft)から、2.0Lエンジン(141馬力・140lb-ft)へと大幅にパワーアップした。これにより0-60mph加速は10.1秒から8.7秒へと大きく短縮。加えて車重も約160kg増えているにもかかわらず、パワーウェイトレシオでは旧型を上回っている。
特筆すべきは、FWD(前輪駆動)モデルの方がAWD(全輪駆動)より軽く、加速性能でも上回っているという点だ。AWDモデルの0-60mph加速は10.4秒と逆に遅くなるため、速さを求めるならFWD一択となる。
「走り」はどう?──街乗りでの使いやすさと山道での楽しさ
ハンドリングは意外なほど良好だ。ステアリングはダイレクトで、コーナリング中も車体のロールは抑えられている。特に安定性制御をオフにすると、ちょっとしたホットハッチ気分も味わえる。街中での加減速も十分で、発進から信号の切り替わりまでの動きがスムーズだ。
ただし、高速道路での合流ではアクセルをしっかり踏み込む必要があるため、“爆発的な加速力”を期待してはいけない。
ブレーキ性能の注意点──パニックブレーキ時に挙動が不安定?
走りの面で唯一の弱点は「急ブレーキ時の不安定な挙動」だ。トーションビーム式のリアサスペンションと、前後重量配分が63:37というフロント寄りのバランスが影響し、急停止時にはリアが左右に揺れるような挙動を見せる。
テストでは60mph(約96km/h)からの停止距離は130フィート(約39.6メートル)と、クラス内ではやや長め。AWDモデルでは独立式リアサスペンションを採用しており、停止距離は127フィート(約38.7メートル)と若干短い。
室内空間と装備──実用性と遊び心の絶妙なバランス
シンプルで快適なインテリア
内装は“実直”そのもの。黒のレザー調シートにオレンジの布インレイ、同色のステッチ、シフト周辺のオレンジ加飾がアクセントになっている。センターディスプレイは12.3インチのデュアル画面構成。Nissanのインターフェースは直感的で、操作時の“クリック音”がまるで古き良きWindowsを思わせる。
必要十分な先進機能
Apple CarPlayはワイヤレスで利用でき、スマホのケーブルが不要。360度カメラも標準装備で、スイッチ一つで上空からの視点が得られるため狭い駐車場でも安心だ。
運転支援機能はNissan Safety Shield 360に加えて、ProPilot Assist 1.0を搭載。高速道路での前車追従やレーンキープ支援が可能で、補助的にステアリングを支えてくれる。過剰に介入しないので、ドライバー主体の運転を邪魔しないのもポイントだ。
荷室と収納力──見た目以上に“積める”工夫満載
後部のラゲッジスペースは二段構造で、荷室を深く使うか、フラットにするかを選べる仕様。床面中央にはヒンジ付きの仕切りがあり、スペアタイヤや旅行カバンなどを収納可能。左右のフックには買い物袋を吊るせるので、中身が転がる心配もない。
なお、電動式ハッチは未搭載だが、物理ボタンでロック・アンロックできる工夫がされている。
プレミアムパッケージの価値──音響にも手を抜かない日産の本気
今回の試乗車にはPremiumパッケージ($1,950相当)を装着。内容は以下の通り:
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パノラミックムーンルーフ
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シートヒーター&ヒーター付きステアリング
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ヒーテッドドアミラー&後席床暖
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リモートエンジンスタート
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雨感知ワイパー
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Bose製10スピーカーサウンド(前席ヘッドレストスピーカー付き)
このサウンドシステムが秀逸で、単なる“話題作り”ではない。音の臨場感が格段に上がり、普段聞いていた音楽に新しい発見があるほどだ。
気になる価格と競合比較──価格対装備でキックスが優勢?
基本価格:$27,570(約430万円)
試乗車価格:$30,835(約480万円)
この価格には以下が含まれる:
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Arctic Ice Blue Metallic + ブラックのツートーン塗装:$800
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スプラッシュガード:$250
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フロアマット&床下プロテクター:$200
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Premiumパッケージ:$1,950
AWD仕様にするとさらに$1,500アップするため、FWDを選ぶことでその分を装備に回すことができる。
主要ライバルのFWD最上級モデル比較:
車種 | 価格 |
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ホンダ HR-V FWD EX-L | $30,895(約483万円) |
ヒョンデ コナ リミテッド | $32,100(約502万円) |
フォルクスワーゲン タオス SE Black | $32,025(約501万円) |
総評:小さくても価値ある選択肢
2025年型 日産キックスSR FWDは、奇抜な装備や目を引くギミックで勝負するのではなく、「必要なものを、しっかりと」満たすことで逆に際立っている。
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