ガソリン車の終焉か?2027年型Dodge Charger Daytona
近年、世界の自動車業界は電動化の大波に飲み込まれつつあります。そんな中、Dodgeが送り出す次世代マッスルカー「2027年型Charger Daytona」に、かつて“バッテリー技術の聖杯”とまで言われた**固体電池(ソリッドステートバッテリー)**が搭載されるとのニュースが、業界内外に衝撃を与えています。
この革命的な技術は、Dodgeの親会社であるStellantisと、バッテリー技術ベンチャー企業Factorial社との提携により実現しようとしています。この記事では、この新技術の詳細、背景、そして「ガソリン車終焉」の予兆ともいえる未来像に迫ります。
固体電池とは?──火災リスクのない夢の電源
リチウムイオン電池の最大の弱点は、「可燃性の有機電解液」を使っている点にあります。液体中に酸素を含むため、空気がなくても発火しやすく、火災時の消火も困難です。
これに対し、「固体電池」はその名の通り固体の電解質を使用することで、可燃性リスクをほぼ排除。理論上は、より高密度で安全、かつ充電時間も短縮できる“理想のバッテリー”です。
ただし、今回Stellantisが採用を目指す「FEST(Factorial Electrolyte System Technology)」は、完全な固体ではなく“準固体(quasi-solid)”とされており、ゲル状あるいはポリマー系の電解質を使ったハイブリッド構造とみられています。
開発企業Factorialとは?──大学発ベンチャーの逆襲
このFESTバッテリーを開発しているFactorial社は、2013年に米・コーネル大学の研究をもとにスピンオフされた企業です。Mercedes-Benz、Hyundai、Stellantisといった大手メーカーが出資しており、その技術の注目度の高さがうかがえます。
2024年にはStellantisやHyundai、Mercedes向けに試作品を出荷。今回、Stellantisはこの技術を搭載した初の市販車となる「2027年型Dodge Charger Daytona」に導入することを正式発表しました。
FESTの実力──エネルギー密度と急速充電性能が桁違い
●エネルギー密度:177 Wh/pound(約390 Wh/kg)
これは従来のリチウムイオン電池(NMC:70〜100 Wh/pound、LFP:40〜60 Wh/pound)をはるかに超える数値です。例えば、テスラ・モデルSのような100kWh級バッテリーが、FESTなら**約565ポンド(約256kg)**で実現可能とされ、重量削減効果も絶大です。
●充放電性能:最大4Cの放電、18分で15〜90%充電
放電能力も従来を上回り、4Cの高出力放電により、加速時のレスポンスも向上。充電時間も**18分で15%→90%**という驚異的なスピードで、ガソリン車の給油時間にかなり接近しています。
●耐環境性能:-30℃から45℃まで安定動作
氷点下でも性能低下が少なく、**-22〜113°F(-30〜45℃)**の広い温度帯で安定稼働する点も、寒冷地ユーザーにとっては朗報です。
Charger Daytonaへの搭載──EVマッスルカーの未来図
FESTバッテリーは、2027年型Dodge Charger Daytonaへの搭載が予定されていますが、最初は限定的な「デモフリート(実証車両)」として展開される見込みです。
なぜなら、この新技術はまだ試験段階であり、量産化に必要な信頼性と生産体制の構築には課題が残っているからです。とはいえ、Stellantisが市販車への搭載を正式に発表したこと自体が、技術の成熟度を示しています。
バッテリーパックの設計にも革命
FESTのような高密度バッテリーは、同じ出力を得るために必要なセル数が少なくて済むため、パックの構造もシンプルにできます。さらに車両全体の重量バランスを最適化しやすくなるという利点も。
StellantisとFactorialは今後、この新型セルに適したパック設計を共同開発していくとしています。
それでも残る懸念──「2027年市販」は本当に可能か?
Factorial社はFESTの詳細仕様を未だに完全には公開しておらず、ブラックボックスが多いのが現状です。また、StellantisのEV戦略そのものも、Jeep Wagoneer Sなどのローンチ遅延で不安視されています。
そのため、2026年内の市販モデル生産開始という目標に対しては、「果たして実現可能か?」という疑念も根強く残ります。
固体電池が変える業界の地図
仮にこのFEST技術が予定通り商業化されれば、単にDodgeのEVが進化するだけでなく、以下のような波及効果が想定されます:
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電動スポーツカーの主流化:ガソリンエンジンと同等かそれ以上のパフォーマンスがEVで実現可能に
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重量削減による航続距離向上:航続距離500km以上が当たり前に
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他業界への応用:ドローンや航空機、軍事用途にも転用可能
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バッテリー価格の競争力強化:既存のNMC/LFPより安価で作れる段階に近づけば、全EVの価格が下がる
ガソリン車の終焉は近い?
著名なEV評論家サンディ・ムンロはかつて、固体電池の登場を「内燃機関の死の接吻(kiss of death)」と呼びました。
今回のFEST搭載Charger Daytonaの登場は、それを裏付ける重要なステップとなり得るでしょう。
結論:2027年、ガソリンからの卒業が始まるか?
FESTという新技術を掲げて走り出したDodge Charger Daytona。かつてのマッスルカーの象徴が、EVの世界で再び「最速」を目指す姿は、まさに時代の転換点を象徴しています。
まだ多くの不確実性を抱えたプロジェクトではありますが、もし成功すれば、それは**「ガソリン車の終焉」**という歴史的な一歩になるかもしれません。
StellantisとFactorialの挑戦は、自動車業界だけでなく、未来の移動体技術そのものに大きな影響を与えるでしょう。
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