トランプ政権の25%関税政策が自動車業界に与える深刻な影響──アメリカ生産車種から見えてくる未来図
2025年3月、アメリカ合衆国のトランプ前大統領は、新たに25%の輸入関税を全ての完成車および自動車部品に対して課す方針を打ち出しました。カナダやメキシコといった近隣国からの輸入も例外ではなく、2019年に締結された米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)も実質的に骨抜きになる形となります。
この関税政策は、アメリカ国内の自動車産業を活性化させることを目的として打ち出されたものですが、現実には多くの矛盾と課題を孕んでいます。本記事では、今回の関税政策がどのような影響を自動車メーカーと消費者にもたらすのかを徹底解説し、あわせてアメリカで生産される車種一覧をブランド別にご紹介します。
なぜ25%関税が導入されたのか?
トランプ前大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」政策の一環として、輸入車の価格を引き上げ、消費者がアメリカ国内で生産された車を選ぶよう誘導する狙いがあります。しかし、新工場の建設には平均で3〜5年、数十億ドルもの投資が必要であり、即効性のある政策とは言い難いのが現実です。
また、アメリカで販売されている車両の約半数が海外で製造された輸入車であり、自動車部品の約60%も海外から輸入されているというデータが示すように、現在の自動車産業は国際的なサプライチェーンに依存しています。そのため、この政策は単に輸入車の価格を押し上げるだけでなく、アメリカ国内で生産される車にも部品コストの上昇という形で波及するのです。
アメリカ生産車種一覧(ブランド別)
以下に挙げるのは、2025年時点でアメリカ国内において最終組立が行われている車種です。これらのモデルは関税の影響を受けにくい一方で、部品の一部は輸入に頼っているため、間接的な価格上昇は避けられない可能性があります。
アキュラ(Acura)
- アメリカ生産:インテグラ、TLX、MDX、RDX など
- メキシコ生産:ADX
アウディ(Audi)
- 全車輸入(ドイツ、ハンガリー、メキシコ、スロバキア、ベルギー)
アルファロメオ(Alfa Romeo)
- 全車イタリア生産
アストンマーティン(Aston Martin)
- 全車イギリス生産
ベントレー(Bentley)
- 全車イギリス生産
BMW(ビー・エム・ダブリュー)
- アメリカ生産:X3、X4、X5、X6、X7、XM
- メキシコ生産:2シリーズクーペ、M2、3シリーズセダン
- ドイツ生産:他モデル全般
ビュイック(Buick)
- アメリカ生産:エンクレイブ
- 中国・韓国生産:アンコールGX、エンビジョン、エンビスタ
キャデラック(Cadillac)
- アメリカ生産:CT4、CT5、リリック、XT5 など
- メキシコ生産:オプティック
シボレー(Chevrolet)
- アメリカ生産:シルバラード、マリブ、コルベット など
- メキシコ生産:ブレイザー、エクイノックス、EVモデル
- 韓国生産:トラックス、トレイルブレイザー
クライスラー(Chrysler)
- カナダ生産:パシフィカ、ボイジャー
ダッジ(Dodge)
- アメリカ生産:デュランゴ
- カナダ生産:チャージャーデイトナEV、シックスパック
- イタリア生産:ホーネット
フォード(Ford)
- アメリカ生産:ブロンコ、エスケープ、エクスプローラー、F-150、マスタング など
- メキシコ生産:ブロンコスポーツ、マーベリック、マスタング・マッハE
GMC(ジーエムシー)
- アメリカ生産:ユーコン、アカディアなど
- メキシコ生産:テレイン、一部シエラ
ホンダ(Honda)
- アメリカ生産:アコード、オデッセイ、パスポート、パイロット、リッジライン
- カナダ・アメリカ生産:シビック、CR-V
- 日本生産:シビックタイプR
ヒュンダイ(Hyundai)
- アメリカ生産:アイオニック5、サンタフェ、サンタクルーズ、ツーソン(一部)
- 韓国生産:他全般
ジープ(Jeep)
- アメリカ生産:ラングラー、グランドチェロキー、グラディエーターなど
- メキシコ生産:コンパス、ワゴニアS、レコンEV(予定)
キア(Kia)
- アメリカ生産:EV6、EV9、テルライド、ソレント(ガソリン)など
- 韓国・メキシコ生産:その他大半
レクサス(Lexus)
- アメリカ生産:ES、TX
- 日本・カナダ生産:IS、NX、RX、UX、LC、LS、LXなど
リンカーン(Lincoln)
- アメリカ生産:アビエーター、コルセア、ナビゲーター
- 中国生産:ノーチラス
ルーシッド(Lucid)
- アメリカ生産:エア、グラビティ
マツダ(Mazda)
- アメリカ生産:CX-50、CX-50ハイブリッド
- メキシコ・日本生産:その他大半(CX-5、CX-30、マツダ3、MX-5など)
メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)
- アメリカ生産:GLE、GLS、EQE SUV、EQS SUV
- ドイツ・ハンガリー・メキシコ生産:その他全般
日産(Nissan)
- アメリカ生産:アルティマ、フロンティア、リーフ、パスファインダー、ムラーノ、ローグ(一部)
- 日本・メキシコ生産:Z、アルマーダ、アリア、ヴァーサ、キックス、セントラ
リヴィアン(Rivian)
- アメリカ生産:R1T、R1Sなど全モデル
スバル(Subaru)
- アメリカ生産:アウトバック、レガシィ、アセント、クロストレック(一部)
- 日本生産:WRX、BRZ、インプレッサなど
テスラ(Tesla)
- アメリカ生産:全車種(モデル3、Y、S、X)
トヨタ(Toyota)
- アメリカ生産:カムリ、カローラ、カローラクロス、ハイランダー、グランドハイランダー、シエナ、セコイア、タンドラ
- メキシコ・カナダ・日本生産:タコマ、RAV4、スープラなど
フォルクスワーゲン(Volkswagen)
- アメリカ生産:ID.4、アトラス、アトラスクロススポーツ
- メキシコ生産:ジェッタ、タオス、ティグアン
- ドイツ生産:ゴルフ、ID.バズ
ボルボ(Volvo)
- アメリカ生産:S60、EX90
- 中国・ベルギー・スウェーデン生産:その他全般
世界第3位の韓国メーカー──ヒュンダイ・キアの今後
世界市場で着実に存在感を高めているのが、韓国のヒュンダイ(現代自動車)およびキア(Kia)です。両社はグローバルでの販売台数を合算すると、日本のトヨタ、ドイツのフォルクスワーゲンに次ぐ世界第3位の自動車グループであり、特にEV分野においては革新的な技術と魅力的なデザインで評価されています。
このような中、今回の25%関税は両ブランドにも大きな影響を及ぼすと見られます。
アメリカ生産体制の強化
ヒュンダイおよびキアは、アメリカ国内にもすでに工場を有しており、アイオニック5、GV70 EV、EV6、EV9、テルライドなど、複数の主力モデルがアメリカで生産されています。これは他のアジアや欧州ブランドに比べて有利な立場です。
今後、アメリカ市場での競争力を維持・強化するためには、さらなる現地生産体制の強化が求められます。すでにジョージア州などでの生産拡張が進められており、将来的には韓国製モデルのアメリカ国内移管も進むと予想されます。
輸入モデルへの影響
一方で、キアのソウル、ニロ、スポーテージハイブリッド、ソレントプラグインハイブリッドなど、多くのモデルが韓国から輸入されています。これらの車種は25%の関税対象となるため、価格上昇は避けられず、販売面での懸念材料となります。
EV市場でのチャンスと課題
アメリカのインフレ抑制法(IRA)により、現地生産されたEVは税制優遇を受けられる一方、海外生産モデルは対象外となります。これにより、ヒュンダイ・キアのアメリカ生産EVは競争力がさらに高まり、消費者へのアピールも強化されると見られます。関税政策と合わせて、今後のEV戦略においても現地生産比率を高める方向性が明確になるでしょう。
関税の影響を受ける高級車・スポーツカー
プレミアムブランドに属する輸入車の多くは、すべて海外で製造されているため、25%の関税による価格上昇は避けられません。特に以下のブランドは、アメリカ国内での生産拠点を持たない、もしくはごく限られた生産のみとなっており、大きな打撃を受けることが予想されます。
- アストンマーティン、ベントレー、ロールスロイス(イギリス)
- フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ、アルファロメオ(イタリア)
- マクラーレン(イギリス)
- ポルシェ(ドイツ、スロバキア)
- ジャガー、ランドローバー(イギリス)
これらの車は、元々価格帯が高いため、25%の関税によって数百万円単位の値上げが見込まれます。
日本メーカーの今後の立ち回り
日本の自動車メーカーは、長年にわたりアメリカ市場において安定したシェアを確保してきました。トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダといった主要ブランドはいずれもアメリカ国内に複数の工場を構え、現地生産体制を強化しています。
トヨタの対応戦略
トヨタはケンタッキー州をはじめとした各地でカムリ、カローラ、タンドラなどの主力モデルを生産しており、アメリカ国内での雇用創出や地域経済への貢献も評価されています。一方で、スープラやRAV4など、海外製造モデルも依然として多く存在しており、これらは25%の関税対象となる可能性が高いです。 今後は、人気モデルの現地生産化、もしくはアメリカ市場向けラインアップの再構成によって、リスクの分散を図る必要があります。
ホンダの対応戦略
ホンダはオハイオ州を中心にアコード、パイロット、オデッセイなどを生産しています。シビックも一部は現地生産されていますが、シビックタイプRなどの高性能モデルは日本からの輸入に依存しており、価格上昇が懸念されます。ホンダはすでにEV開発と現地生産を強化しており、今後はGMとの提携による北米向けEVの展開も進められる予定です。
日産の対応戦略
日産はテネシー州とミシシッピ州でリーフやアルティマなどを生産しており、比較的多くのモデルをアメリカ国内で製造しています。ただし、フェアレディZやアリアといった注目モデルは日本生産のため、価格調整が課題となります。今後は、電動化戦略をアメリカ市場に合わせて進化させると同時に、北米専用モデルの現地化がカギとなるでしょう。
スバル・マツダの対応戦略
スバルはインディアナ州でアウトバックやアセントを生産しており、比較的アメリカ現地生産率が高いメーカーです。マツダはアラバマ州でCX-50を生産開始しており、今後の北米向けSUVの生産拠点として拡張が期待されています。
共通の課題と展望
日本メーカー全体に共通しているのは、現地生産と輸入の両方に依存していることです。今回の関税政策により、輸入モデルの販売価格が上昇すれば、現地生産車との価格差が広がり、モデル選定にも大きな影響が出てくるでしょう。
さらに、電動化という世界的な潮流の中で、各社がアメリカ国内でEV生産をどう進めるかが今後の鍵を握ります。バッテリー生産やインフラ整備、そしてIRAに対応するための原材料調達体制など、多岐にわたる対応が求められています。
日本メーカーはこの変化をチャンスと捉え、北米市場における競争優位性を再定義していく必要があるのです。
結論:関税の導入がもたらすものとは?
2025年に施行された25%の輸入関税は、自動車業界全体に激震を与えるものとなりました。表面的にはアメリカ国内の製造業を支援するという目的のもとに導入されたこの政策ですが、国際的なサプライチェーンに支えられている現代の自動車産業にとっては、価格の上昇や供給の混乱といった副作用が懸念されます。
短期的には消費者への価格転嫁が進み、輸入車を中心に販売減少のリスクが高まります。中長期的には各メーカーがアメリカ国内での生産体制をさらに強化することが求められ、特にEV関連の投資や原材料確保が焦点となるでしょう。
一方で、すでにアメリカでの生産基盤を築いてきた日本や韓国メーカーにとっては、今後の成長機会と捉えることもできます。トヨタやホンダ、ヒュンダイ・キアなどは、現地化と電動化を軸にアメリカ市場での競争力をさらに高めていくことが期待されます。
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