ダートにも映える「都会派オフローダー」:ホンダCR-V トレイルスポーツ
そして今、そのCR-Vが「トレイルスポーツ」として新たな挑戦を始めている。2026年モデルに登場したこのCR-V トレイルスポーツは、ホンダが近年力を入れている「ライト・オフローダー」ラインの一角として位置づけられている。果たしてこれは、本格的な悪路走破性を持つ冒険者なのか?それとも街乗りに少しのスパイスを加えただけの“なんちゃってオフローダー”なのか?
本記事では、MotorTrendが実施した実走テストの内容をもとに、ホンダCR-V トレイルスポーツ2026年モデルの真価に迫っていく。
ライバルに押され気味?CR-Vの現在地と「TrailSport」投入の意義
CR-Vは、ホンダのラインナップにおいて最も売れている車種のひとつであり、長年にわたってコンパクトSUVセグメントのトップランカーだった。しかし近年、その地位はやや揺らいでいる。トヨタRAV4、マツダCX-50、ヒュンダイ・ツーソンといったライバルたちが、燃費、デザイン、先進安全技術、走行性能の面で進化を遂げ、CR-Vの存在感を相対的に薄めているのだ。
そんな中、ホンダが送り出したのがこの「CR-V TrailSport」だ。
TrailSportとは、ホンダが数年前から展開している新しいグレード名であり、「街乗りと軽度のオフロード走行の両立」をコンセプトとする。PilotやPassport、Ridgelineなどに採用されてきたが、CR-Vにとってはこれが初採用となる。
見た目で魅せる「都会派オフローダー」
まずはエクステリアから見ていこう。CR-V TrailSportは、「これ見よがし」なオフロードデザインではなく、控えめながらも確かな個性を放つ仕上がりだ。
バンパーの「スキッドガーニッシュ」やブラックアウトされたドアハンドル、グレー仕上げの18インチアルミホイール、さらには専用カラーである「アッシュグリーンパール」のボディなど、随所にTrailSport専用の装備が施されている。
また、フェンダーやリアバンパーも同系色で統一され、全体のトーンが整っている。まさに「ダートでも映える」CR-Vだ。
室内にもこだわりのTrailSport演出
キャビンに足を踏み入れると、視界に飛び込んでくるのはオレンジのアクセントステッチや、ヘッドレストに刺繍されたTrailSportロゴ。全体的にブラック基調のシンプルなインテリアに、ちょっとした遊び心が光る。
アンビエントライトにはアンバー色が採用され、夜間ドライブ時にやわらかな光がキャビンを包み込む。加えて、オールシーズン用フロアマットにもTrailSportのロゴが入り、細部にまで演出が行き届いている。
インフォテインメントは2026年仕様へ進化
CR-V TrailSportには、9.0インチのタッチスクリーンが標準装備されている。従来の7インチから大きくなり、視認性や操作性が向上した。画面サイズだけを見れば、RAV4やツーソンに一歩劣るものの、タッチレスポンスやUIの洗練度は高評価だ。
また、ワイヤレスApple CarPlay/Android Auto、ワイヤレス充電器も全グレードに搭載。上位グレードには10.2インチのデジタルメータークラスターが採用され、先進性を一段と高めている。
走り出せば「いつものCR-V」だが…
日常使用ではどうか?MotorTrendのテストドライブでは、カリフォルニア州カールスバッド近郊の街中からハイウェイ、そして未舗装路まで、合計約210kmに及ぶコースを走行。舗装路における印象は「これぞCR-V」と言える安定感だった。
2.0Lのアトキンソンサイクルエンジンと、電動モーターを組み合わせたハイブリッドシステムは、合計204馬力を発揮。CVT(無段変速機)との相性も良く、力不足を感じる場面は少ない。
ロードノイズは抑えられており、18インチのオールテレーンタイヤ(Continental CrossContact ATR)も意外なほど静か。唯一気になるのは、エンジン回転数が上がった際に若干耳につくサウンドだが、許容範囲だ。
オフロード性能は“控えめな期待”をやや超える
今回の注目ポイントは、やはりオフロード性能。TrailSportの真価が問われる場面だ。
試乗では、レイクサイドにあるモトクロスパークに立ち寄り、傾斜のあるダート路を走行。トラクションマネジメントが改良されており、低速時のタイヤ空転をブレーキで素早く抑制。傾斜7%以上の坂道も、ヒルディセントコントロールが滑らかに下っていく。
あくまで「軽度のオフロード」という前提ではあるが、未舗装の山道、ぬかるんだ林道程度なら難なく走破できそうだ。CR-Vにしては頑張っていると言えるだろう。
収納力と居住性は健在だが、ハイブリッドはやや狭い
CR-Vの長所のひとつである室内スペースは、TrailSportでも健在。前席・後席ともに快適で、足元や肩回りも広々している。ただし、ハイブリッドモデルではバッテリーの搭載により、荷室容量がやや減少している点には注意が必要だ。
ガソリンモデルが39.3立方フィート(約1,112L)に対し、TrailSportを含むハイブリッドモデルは36.3立方フィート(約1,028L)と、やや控えめ。それでも日常用途では十分な広さが確保されている。
燃費性能は平均的、でもTrailSportはやや不利?
燃費はCR-Vハイブリッド全体で見れば良好だ。EPA(米国環境保護庁)によると、市街地38mpg、高速道路33~36mpg、複合で35~40mpgという数値が公表されている。
しかしTrailSportに限ると、オールテレーンタイヤやAWD(全輪駆動)の影響で、ハイブリッドシリーズの中では最も燃費が低い。とはいえ、それでも30mpg台後半を記録しており、競合車と比較すれば依然として優秀な部類に入る。
装備と価格のバランスは?
CR-V TrailSportの価格は40,195ドルからと、EX-LとSport-Lの中間に位置する。最上級のSport Touring(43,645ドル)と比べると控えめだが、AWDを標準装備し、独自の装備を多数備えている点を考えれば、十分納得の価格設定だ。
今後への期待と課題:もっと“攻めた”TrailSportを!
現時点では、TrailSportというグレードは「本格的なオフローダー」というより、「日常+ちょっと冒険」向けのSUVに過ぎない。だが、これはあくまでも第一歩。ホンダがこのモデルの販売実績を見て、将来的により本格的なハードウェア(ロックディファレンシャルやリアロック機構など)を導入する可能性もある。
「CR-Vはもっと過激でいい」——そう思うファンも多いだろう。TrailSportは、そうした声を形にしていくための種なのだ。
総評:都会派SUVが、もう一歩ワイルドへ
2026年型ホンダCR-V TrailSportは、従来のCR-Vの持つ快適性、信頼性、そして燃費性能に、視覚的・機能的な「冒険心」を加えたモデルだ。オフロード性能は限定的だが、街乗り主体のユーザーにとっては「ちょっと行けそう感」が大きな魅力となる。
ホンダがこのTrailSportというブランドをどう育てていくのか。それは今後の市場の反応にかかっている。少なくともこのCR-V TrailSportは、そのスタートとしては非常に興味深く、また完成度の高い一台であることは間違いない。
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