2025年5月、アメリカ・テキサス州でひとつの画期的な法案が可決された。内容は「25年以上前に製造された日本製軽トラックの登録を州が義務づける」というものであり、これは従来の曖昧な登録拒否の姿勢に終止符を打つ法的勝利である。すでにコロラド州やマサチューセッツ州などでも同様の動きがあり、“K-truck(ケイトラック)”と呼ばれる日本の軽自動車がアメリカで急速に存在感を高めつつある。
この現象は単なる自動車趣味の延長ではない。コンパクトで高燃費、そして頑丈で実用的な軽トラが、環境志向とコストパフォーマンスを重視するアメリカ人のライフスタイルにフィットし始めたのだ。
1章:軽トラックがアメリカでブームに?
「軽トラがアメリカで売れている」と聞いて、多くの日本人は半信半疑かもしれない。しかし、実際には古いスズキ・キャリイやダイハツ・ハイゼット、ホンダ・アクティなどが中古車としてアメリカで人気を博しており、特に農村部やDIY愛好家、さらにはキャンピングカー愛好家から強い支持を得ている。
その背景にはアメリカ連邦政府の「25年ルール」がある。このルールにより、25年以上前に製造された車両は米国の衝突安全基準や排ガス規制の対象外として輸入が認められる。つまり、合法的に日本から“旧車”として輸入できるのだ。
2章:それでも州の壁があった
ところが、連邦法では輸入が許されていても、各州が独自に登録やナンバープレート発行を拒否するケースが続出した。テキサス州もその一つだった。輸入しても「公道を走れない軽トラ」では、魅力は大きく損なわれてしまう。
これに立ち上がったのが「Lone Star Kei」という団体だ。創設者のデイビッド・マククリスチャン氏は、州内のすべての議員に働きかけ、州運輸局のポリシー変更を実現した。2024年4月にはポリシーが改訂されたが、それはあくまで“方針”であり、法的根拠には乏しかった。
3章:SB1816法案の成立とその中身
そして2025年5月、ついにテキサス州議会は「SB1816法案」を可決。驚くべきことに、上下両院で3分の2以上の賛成を得たため、知事の署名を待たずして即時発効することになった。
この法案では、「連邦法に準拠したミニチュア自動車(miniature motor vehicle)は、州が登録しなければならない」と定められており、文面には「軽トラック(kei truck)」という言葉は登場しないものの、事実上これらの車両の登録義務化を意味している。
4章:なぜ軽トラがアメリカ人にウケるのか?
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サイズと利便性:都市部や農地でも小回りがきき、維持費も安い。
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燃費性能:燃料費が高騰する中、20km/Lを超える燃費は魅力的。
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修理のしやすさ:シンプルな設計でDIY整備がしやすい。
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カスタマイズ文化:レトロで“かわいい”ベース車両としてSNS映え。
5章:アメリカ各州で進む法改正の波
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マサチューセッツ州:2024年に政策転換。
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コロラド州:2025年に法改正、施行は2027年。
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その他の州でも見直し検討中。
背景には、ピックアップトラックの価格上昇と、農業や物流業界のニーズの高まりがある。
6章:Lone Star Keiの挑戦と勝利
デイビッド・マククリスチャン氏は、自身の軽トラを登録できなかった経験を原動力に、草の根運動を展開。議員やメディアへの直接アプローチ、啓発イベント、SNSでの発信が実を結び、法案成立に至った。
7章:軽トラ文化が地域経済にもたらす新たな風
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農業現場での活用:大型車では入れない圃場で活躍。
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移動販売ビジネス:軽トラカフェや屋台が人気。
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自治体の導入:市営公園や清掃車として活用する自治体も出現。
8章:日本にとってのビジネスチャンス
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中古軽自動車の再評価
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部品・パーツ供給の輸出
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軽トラ関連アクセサリーの販路拡大
輸出事業者にとって、軽トラブームは“25年落ちビジネス”という新しい柱になる可能性がある。
9章:今後の課題
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安全基準とのギャップ
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右ハンドル車の扱い
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整備・部品供給体制の確立
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保険加入の難しさ
今後は米国内での整備拠点やパーツサプライチェーン構築が不可欠。
10章:まとめ
軽トラは今、アメリカで“古くて新しい”モビリティとして注目されている。日本で生まれたこの独自文化が、法整備と草の根活動によってアメリカに根付きつつある。
テキサスを皮切りに、軽トラの正当性が認められる州が増えれば、日本の軽自動車産業にも大きな追い風となるだろう。軽トラは、単なる実用車ではなく、文化の輸出であり、モビリティの原点を世界に再認識させる存在なのだ。
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