第1章:EV大国・中国の栄光と違和感
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2023年、EV販売台数世界一となった中国。
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販売台数トップは米テスラ……ではなく中国のBYD。
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だが、この華々しい成功の裏には、「莫大な助成金」という国家戦略の影がある。
第2章:BYDはどうやってトップに立ったのか?
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BYDは2003年に自動車部門を創設。もともとはバッテリーメーカー。
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国家主導の「新エネルギー車(NEV)」戦略の波に乗る。
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2010年頃から毎年数百億元規模の支援が続く。
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例:2015年〜2020年の6年間で受け取った補助金総額は約96億元(約1,900億円)。
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2018年:BYDの年間純利益は約27億元。そのうち政府補助金は約25億元。
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実質的には補助金がなければ赤字という年も。
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第3章:助成金の種類と構造
助成金の種類 | 内容 |
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中央政府のEV購入補助金 | 個人・法人がBYD車を購入すると、政府が1台あたり数万元を還元 |
地方政府のインフラ支援 | 地方政府がBYDの充電設備・工場用地を無償または格安提供 |
融資の優遇措置 | 国家開発銀行などが低金利・無担保で長期貸付 |
NEVクレジット制度 | BYDのEV販売に応じて他社から“排出権”を販売し追加利益を得る |
間接支援 | 電力料金補助、税制優遇、補助金対象車への選定(名義支援) |
第4章:EVバブルが生んだ地方政府の「財政の崖」
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地方政府はEV誘致を「GDP稼ぎ」として推進。
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武漢、合肥、重慶などがEVメーカーに数千億円規模の支援や土地提供。
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しかし、その多くは失敗。
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例:威馬汽車(WM Motor)などが倒産または実質停止。
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建設された工場が空き地に。地方債務はGDPの300%超とも。
第5章:中国型資本主義の“闇”──ゾンビ企業の温存
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国家戦略である以上、競争力のない企業も延命される。
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一時期、中国には400社を超えるEVメーカーが存在。
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一部は補助金詐欺も発覚(例:実際には販売していないEVに補助金申請)。
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競争ではなく補助金の取り合いとなることで、産業の健全性が失われる。
第6章:国際社会との摩擦
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EUや米国は「不公正な競争」として中国EVを警戒。
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EUは2024年に中国EVへの関税調査を開始。
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米国はすでに中国製EVに高関税+安全保障上の懸念から事実上の輸入停止。
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日本でも「価格で勝負にならない」という声が業界からあがる。
第7章:EV競争の主戦場と化す中国
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今後は内需よりも輸出競争へ。
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BYDは東南アジア、南米、欧州に進出中。
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一方で、テスラや日産など外資系は苦戦中。BYDの価格攻勢と補助金優位が影響。
第8章:中国国内でも高まる“反省の声”
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地方債務の拡大が中央政府にもプレッシャー。
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一部の経済学者から「EV依存の国家戦略は長続きしない」との指摘。
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補助金の削減や制度の見直しが議論されている。
第9章:トヨタ・日産・ホンダはどうするのか
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日本勢はEV単独での勝負では不利。
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トヨタはハイブリッドを前面に。ホンダもPHEVとの組み合わせに注力。
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「価格では勝てない」ため、品質・耐久性・ブランド力で勝負する方向へ。
第10章:おわりに──補助金が生んだ“繁栄”の持続性
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補助金によって急成長したEV産業は、巨大であるがゆえに不安定。
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国家の意志ひとつで「盛り」も「崩壊」も一瞬。
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BYDが象徴するのは、自由市場ではなく「政治に操られる資本主義」。
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世界が今問うべきは、「どこまでが市場競争で、どこからが国家介入なのか」である。
📊 BYDの補助金推移グラフ(2015〜2024年)
以下は、BYDが受け取った政府補助金の推移を示すグラフです。
年度 | 補助金額(億元) | 備考 |
---|---|---|
2015 | 15 | 国家NEV戦略開始 |
2016 | 20 | 地方政府の支援強化 |
2017 | 18 | 補助金制度の見直し |
2018 | 25 | 補助金依存の指摘 |
2019 | 22 | 補助金縮小開始 |
2020 | 20 | COVID-19による景気刺激策 |
2021 | 18 | 補助金制度の再構築 |
2022 | 16 | 補助金の段階的廃止 |
2023 | 14 | 補助金終了の最終年 |
2024 | 10 | 補助金制度終了後の影響 |
🥧 2025年4月時点の中国NEV市場
以下は、2025年4月時点の中国NEV市場における各メーカーのシェアを示すグラフです。
メーカー | 市場シェア(%) |
---|---|
BYD | 29.7 |
Geely | 13.1 |
Tesla | 3.2 |
Xiaomi | 3.2 |
Leapmotor | 3.1 |
その他 | 47.7 |
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