
はじめに――なぜ今「トレイルスポーツ」なのか?
ここ数年、自動車業界には“オフロード風SUV”のブームが到来している。ラダーフレーム構造でもなければ、ローレンジ付きの本格4WDでもない。それでも、SUVというカテゴリに属する以上、「タフなルックス」は商品力を高める大きな武器となる。
そんな中、ホンダが2022年に立ち上げたサブブランドが「トレイルスポーツ」だ。最初はPassportという、北米向けミッドサイズSUVから始まり、その後Pilot、Ridgelineへと拡大。そして、ついに2026年モデルでCR-Vにもその名が与えられた。
だが、今回のCR-V トレイルスポーツ ハイブリッドには、これまでのトレイルスポーツとは明らかに異なる“空気”が漂っている。本当にこれは「Trail」を名乗るに値するのか? それを自動車ファンとして正しく見極めるために、本記事ではこの1台を徹底分析する。
ホンダの“トレイルスポーツ戦略”とは何だったのか?
ホンダがオフロード志向の装備を展開し始めたのは決して早くなかった。トヨタにはTRD Pro、スバルにはWilderness、マツダにはCX-50のMeridian Edition、フォードにはTremorなどがある中で、ホンダの初手はかなり慎重かつ控えめだった。
2022年に登場した初代Passport TrailSportは、ほぼ“見た目だけ”のモデルだった。荒々しいサイドウォールのタイヤはRidgelineからの流用で、最低地上高やアプローチ角はノーマルと同じ。つまり、本格オフローダーの期待を寄せた層からは「名前負け」と見られてしまった。
だがその後、ホンダは学び、Pilot TrailSportでは専用サスペンション、オールテレーンタイヤ、スキッドプレートなどを導入。Ridgelineや二代目Passportにもリアルな装備を与え、信頼を回復しつつあった。
ところが今回のCR-V トレイルスポーツ ハイブリッドは、再び“外見重視”の方向へと舵を切ったのだ。
CR-V ハイブリッドとしての基本性能
CR-Vはホンダのグローバル戦略SUVとして確固たる地位を築いている。2023年にフルモデルチェンジされた6代目は、全体的にボディサイズが拡大され、インテリアの質感も向上。中でも注目されたのがハイブリッドモデルの進化だった。
2026年型CR-V トレイルスポーツに搭載されるハイブリッドパワートレインは、以下のような構成だ:
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2.0L 直列4気筒 DOHCエンジン(145hp/138lb-ft)
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電気モーター(181hp)
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システム合計出力:204hp
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トルク:247lb-ft(約335Nm)
ホンダ独自の2モーター式ハイブリッドシステムは、発進時・低速域をモーターでまかない、中速域でエンジンを発電に活用、高速域でエンジン直結に切り替わるスマート設計だ。
これに全輪駆動(AWD)システムを組み合わせることで、通常のCR-Vよりも一段上のトラクション性能を獲得している。さらに、TrailSport専用として、コンチネンタルの「CrossContact ATR」というオールテレーンタイヤを18インチホイールに装着する。
外観は“オフロード風”で勝負?
2026年型CR-V トレイルスポーツ ハイブリッドの外観上の特徴は、「Ash Green Pearl」という専用カラー、そしてオレンジのTrailSportバッジに集約される。
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ブラック仕上げのエクステリアトリム
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シルバーのスキッドガーニッシュ(バンパー下部)
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新デザインの前後バンパー(全グレード共通)
一見するとオフロード感が強調されているように見えるが、サスペンション形式、最低地上高、アプローチ角、デパーチャー角などは他グレードと同じであり、「本格装備」の範疇には入らない。
オレンジの内装はTrailSportのアイデンティティ
TrailSportらしさを演出するオレンジのアクセント:
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ヘッドレストには「TrailSport」ロゴをオレンジで刺繍
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フロアマットも専用のオレンジロゴ入り
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ステッチやアンビエント照明もオレンジ
装備面も充実:
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10.2インチのデジタルメーター
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ヒーター付きクロスシートとステアリング
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パワーテールゲートとムーンルーフ
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8スピーカーの上級オーディオ
失われた本格装備への期待と疑問
以下の本格オフロード装備は非搭載:
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専用サスペンションチューン
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スキッドプレート
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地上高の向上
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ボディ補強
TrailSportという名称が期待を裏切る結果になってしまっている。
ソフトな“オフロード制御”――ブレーキベースのトラクションシステム
機能概要:
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9mph(約14km/h)以下の超低速域で作動
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ブレーキを使ったトルクベクタリング
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全AWDモデルに標準搭載(TrailSport専用ではない)
本格的な岩場や急斜面では効果が限られ、あくまで「軽度な不整地」での補助にとどまる。
燃費と乗り心地のトレードオフ
燃費に影響する要素:
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ブロックパターンによる転がり抵抗増加
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タイヤ重量増加によるバネ下荷重の増大
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空気抵抗の微増
乗り心地面では:
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路面の凹凸を拾いやすくなる
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転がり音が大きくなる
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高速安定性が若干低下
TrailSportハイブリッドの立ち位置と他社比較
車種 | 駆動方式 | タイヤ | サスペンション強化 | 地上高UP | ハイブリッド | 価格帯(米国) |
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Toyota RAV4 Woodland Edition | AWD | A/T | ○ | ○ | ○ | $36,000〜 |
Subaru Forester Wilderness | AWD | A/T | ○ | ○ | × | $34,000〜 |
Mazda CX-50 Meridian Edition | AWD | A/T | ○ | ○ | × | $38,000〜 |
Honda CR-V TrailSport Hybrid | AWD | A/T | × | × | ○ | $38,000(予想) |
まとめ――見た目に騙されない選び方を
2026年型ホンダCR-V トレイルスポーツ ハイブリッドは、TrailSportブランドの中では異色の存在だ。PilotやRidgelineのような本格志向ではなく、むしろ“アウトドア風ファッションSUV”という立ち位置に回帰している。
しかし、パワフルなハイブリッドユニットとAWD、充実した装備、そしてTrailSportらしい外観は、日常と非日常を両立したいユーザーには魅力的だ。
結論:
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「見た目のタフさ」と「中身の快適性・実用性」を求めるなら“買い”
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本格的なオフロード性能を期待するなら“他車を検討すべき”
TrailSportという名前が揺れ動く中、CR-V TrailSport Hybridはその分岐点に立つ1台だ。
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