
はじめに:ルノー5が電気の力でよみがえる
1970年代にフランス国内だけでなく世界中で大ヒットを記録し、独特のスタイルと使いやすさで多くの人々に愛されたコンパクトカー「ルノー5(サンク)」。あの名車が、約40年の時を経て「電気自動車(EV)」として華麗に復活しました。2025年に登場した「ルノー5 E-Tech」は、レトロな魅力を保ちつつ、最新のEVテクノロジーを詰め込んだモデルとしてヨーロッパ市場で話題沸騰中。欧州カー・オブ・ザ・イヤーも受賞し、今や「都市型EVの新たなスタンダード」とも言える存在となっています。
本記事では、ルノー5 E-Techの歴史的背景から最新モデルの特徴、乗り味、そして日本市場への可能性まで、徹底的に解説していきます。
第1章:ルノー5とは何者か?懐かしの名車「ル・カー」の歴史
1-1. ルノー5の誕生
1972年、フランスで初代ルノー5が登場しました。デザイナーのミッシェル・ブエ(Michel Boué)が手掛けたそのデザインは、コンパクトで実用的、そしてスタイリッシュ。特徴的な「縦型テールランプ」やシンプルなライン構成は、今見てもまったく色褪せない魅力があります。
フランスでは「庶民のための車」として大成功を収め、特に若者や女性層からの支持が厚く、1980年代前半までに550万台以上を販売。まさに“国民車”と呼ぶにふさわしい存在でした。
1-2. アメリカ市場への挑戦:Le Carの登場
ルノー5は1976年、「Le Car(ル・カー)」という名称でアメリカ市場にも投入されました。アメリカのガソリン価格高騰を背景に、小型で燃費の良いル・カーは一定の支持を集めましたが、当時のアメリカの整備事情とルノーの部品供給の弱さがネックとなり、1983年には販売終了。
ルノー自体も1987年にアメリカ市場から撤退しましたが、当時を知るクルマファンの中には、いまだにLe Carへの懐かしさを口にする人も多いのです。
第2章:2025年、ルノー5は電動モデルとして復活
2-1. 伝説のリブート:E-Techのコンセプト
2021年にコンセプトモデルとして発表され話題となった「ルノー5プロトタイプ」が、ついに市販化されました。2025年モデルとして発表された「ルノー5 E-Tech」は、50年前のオリジナルに忠実なスタイリングをベースにしつつ、現代のEVとしての実用性とパフォーマンスをしっかりと両立しています。
その設計思想は「EVをもっと楽しく、もっと身近に」。ヨーロッパにおいて高価なEVばかりが増える中、ルノーはルノー5 E-Techによって、「誰もが楽しめるEV」を目指したのです。
第3章:エクステリアデザインの魅力
3-1. アイコニックなシルエットの再解釈
初代の「折り紙のような」シンプルなラインを継承しつつ、現代風に再構築されたボディ。ボンネット上のバッテリー残量インジケーターや、隠しドアハンドルなど細部まで凝った意匠が光ります。
中でも注目なのが18インチホイールと力強いフェンダーアーチ。これは往年のホットハッチ「ルノー5ターボ」を彷彿とさせ、ノスタルジックでありながらも今風の“コンパクトクロスオーバー風味”が加えられています。
3-2. カラーバリエーションと存在感
「Pop Yellow」「Pop Green」などの鮮やかな色合いに加え、取材車両であった「Diamond Black × レッドストライプ」は、スポーティかつ高級感のある印象。ボディカラーだけでも「遊び心」と「品の良さ」が伝わってきます。
第4章:プラットフォームとパワートレイン
4-1. AmpR Smallプラットフォームとは?
ルノー5 E-Techは、ルノーグループが開発した新しいEV専用プラットフォーム「AmpR Small(旧称:CMF-B EV)」を採用しています。このプラットフォームは、重量バランスや剛性、航続距離の最適化を重視して設計されており、今後ルノー・日産・三菱連合でも他モデルに展開予定です。
4-2. 2種類のバッテリーと性能比較
モデル名 | バッテリー容量 | 出力 | 航続距離(WLTP) | 推定EPA | 充電能力 |
---|---|---|---|---|---|
Urban Range | 40kWh | 120hp(約122PS) | 約310km | 約257km | 80kW DC急速充電 |
Comfort Range | 52kWh | 147hp(約149PS) | 約405km | 約337km | 100kW DC急速充電 |
エントリーグレードの「Urban Range」でも、日常使いには十分なパフォーマンスを発揮します。120馬力、トルク165lb-ft(約224Nm)というスペックは、0-100km/h加速8.7秒程度。より余裕を求めるなら「Comfort Range」一択です。
第5章:インテリアと装備のこだわり
5-1. コンパクトなのに驚くべき広さ
全長約3.9mのボディサイズながら、ホイールベース2.54m、車幅は1773mmとかなりワイド。センターコンソールの大容量ストレージや、助手席側ダッシュボードの浅さが空間感を演出しています。シートポジションも非常に低く、身長185cmのドライバーでも余裕のヘッドクリアランス。
5-2. デジタル装備と質感の高さ
10.1インチのインフォテインメントスクリーンとデジタルメーターを搭載。グラフィックも美しく、操作レスポンスも上々。特に「Techno」グレードでは、デニム調のシートが独特のフランスらしい遊び心を表現しています。
第6章:走りの印象と実用性
6-1. 街乗りで真価を発揮
加速は自然で扱いやすく、ステアリングは軽快かつ正確。街中のラウンドアバウトでも俊敏に対応でき、取り回しも非常に楽。電動車特有の「唐突な加速」ではなく、自然なトルクの立ち上がりがむしろ好印象です。
6-2. 高速道路も快適
小さなEVにありがちな「ノイズ」問題も、ルノー5では見事に解消。100km/h巡航時でも静粛性は非常に高く、足回りもよく締まっており、ロングドライブもこなせそうな快適さがあります。
6-3. 難点も少しだけ
荒れた路面での突き上げや、ミッドコーナーでの段差超えは若干気になりますが、価格帯を考えれば十分に許容範囲。むしろ、丸みを持たせた乗り味にフランス車らしさを感じるという声も。
第7章:価格と競合車比較
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Urban Range:約2万4700ドル(約380万円)
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Comfort Range:約2万8900ドル(約445万円)
価格面では、BMWミニ・クーパー・エレクトリックよりも安価で、欧州市場における「おしゃれで実用的なEV」として確固たる立ち位置を確保しています。
競合モデルと比較:
モデル名 | 航続距離(EPA換算) | 出力 | 価格(参考) |
---|---|---|---|
MINI Cooper Electric | 約320km | 181hp | 約520万円 |
Fiat 500e | 約240km | 117hp | 約390万円 |
Honda e:Ny1(欧州) | 約300km | 201hp | 約480万円 |
第8章:日本市場への期待と課題
現在、日本での販売計画は未定ですが、BセグメントのEVとして注目度は高く、「日産×ルノー連合」の技術共有を活かせば、e-POWERや軽EVとの共存も可能かもしれません。
課題はやはり価格とインフラ。都市部向けとはいえ、400万円超の価格帯がどれだけ受け入れられるかがカギになります。
まとめ:レトロと革新が交差する、フランスからの贈り物
「ルノー5 E-Tech」は、懐かしさと未来志向の両立に成功した希少なモデルです。ただの復刻版ではなく、しっかりと“今の時代にマッチした電動車”として成立しています。
BMWミニのような“レトロプレミアムEV”はすでに存在していますが、それよりも手が届きやすく、日常使いに優れた実用性を持ったルノー5 E-Tech。EV市場の拡大が鈍化する今だからこそ、こういった「楽しいEV」の存在意義はますます大きくなっていくでしょう。
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