ポルシェが再び内燃機関へ—中国の価格攻勢で欧州メーカーが苦境

ポルシェが再び内燃機関へ—中国の価格攻勢で欧州メーカーが苦境

ポルシェは、近年の電動化戦略を見直し、内燃機関（ICE）およびハイブリッドパワートレインへの注力を強化する方針を示している。この決定は、電気自動車（EV）の需要低迷や内燃機関モデルへの根強い需要を受けてのものだ。

具体的には、2025年に「内燃機関およびハイブリッドパワートレインの生産拡大と開発」に関連して約8億3,100万ドルの追加支出を見込んでおり、これにはバッテリー関連の活動も含まれる。この戦略転換により、利益率は10～12％に低下すると予想され、売上高は400～410億ドルと見込まれている。

この動きは、ポルシェが当初計画していた電動化戦略からの大きな転換を示している。例えば、次世代の718シリーズは完全な電動化が予定されていたが、内燃機関やハイブリッドバージョンの導入が検討されている。また、カイエンEVの発売も遅延が報じられており、2026年のデビューが危ぶまれている。さらに、ベストセラーモデルであるマカンEVにも、内燃機関バージョンが早期に追加される可能性がある。

このような戦略の見直しは、ポルシェだけでなく、欧州全体の自動車業界におけるEV化戦略の失速を反映している。欧州では、EVの需要が予想を下回り、特に高価格や充電インフラの不足、一部の国での購入補助金の終了などが要因とされている。例えば、ドイツでは2024年にEV購入補助金が終了し、フランスではアジア生産のEVが補助金の対象外とされた。これらの政策変更により、EVの販売が減速し、ハイブリッド車や内燃機関車への需要が再び高まっている。

さらに、中国メーカーの台頭も欧州のEV市場に影響を及ぼしている。中国の自動車メーカーは、低価格のEVモデルを提供し、欧州市場でのシェアを拡大している。特に、中国政府による違法ともいえる過剰な補助金や、不透明な貿易慣行に支えられた安価なEVの輸出が欧州メーカーの競争力を奪っている。これに対し、欧州の自動車メーカーは高価格帯のEVに注力してきたため、価格競争で不利な立場に置かれている。また、充電インフラの整備が遅れていることも、消費者のEV購入意欲を削ぐ要因となっている。

ポルシェの今回の戦略転換は、これらの市場動向を踏まえた柔軟な対応といえる。内燃機関モデルやハイブリッドモデルの需要に応じて、生産ラインや研究開発体制を柔軟に調整し、顧客のニーズに応える姿勢を示している。しかし、このような方針転換には多大なコストが伴い、利益率の低下や開発スケジュールの遅延などの課題も予想される。

欧州全体としても、EV化戦略の見直しが求められている。政府や自動車メーカーは、消費者のニーズや市場動向を的確に捉え、充電インフラの整備や価格競争力の向上など、総合的な対策を講じる必要がある。また、EV以外の脱炭素技術、例えばハイブリッド車や合成燃料（e-fuel）など、多様な選択肢を検討することも重要だ。

ポルシェの戦略転換は、欧州の自動車業界全体にとって一つの転機となる可能性がある。今後の市場動向や技術革新を注視し、持続可能なモビリティの実現に向けた柔軟かつ現実的なアプローチが求められている。